Aono's Quill Pen

青野の鑑賞記録

おんな城主直虎

パラレルワールドの政次

『直虎』その後 『わろてんか』を見ていて、伊能栞がてんたちと同じ時空を共有しているようでしていない、独自の次元に存在する孤独な存在のように思えるようになってから、改めて政次とは何だったのかということを今更ながらに考えるようになりました。 1…

『おんな城主直虎』総括②~『直虎』と過ごした私の365 days

はじめに 私が『直虎』を総括するなら書いてみたいと思っていたことの一つは、『直虎』を1年間見てきた自分の「心の旅路」です。『直虎』は視聴者の数だけ感動や萌えのポイントがあり、多彩な解釈を許す懐の大きな作品でした。Twitterやブログを読んで面白…

『おんな城主直虎』総括①~直虎の思想的成長から再整理する全体構成

はじめに 『直虎』の総括するにあたり、まずは全体の構成について改めて考えてみたいと思います。このブログで私は『直虎』の構成に着目したエントリを何回か書いてきました。そのたびに、「これは未完成のパズルだから、全て終わった時に全体像を見てみたい…

『おんな城主直虎』50話~意思を継ぎ、それを広める井伊の使徒たちの行伝録

はじめに 最終回は第一部「自然の首」、第二部「おとわの死」、第三部「潰れた家の子の働き」の三部構成とも言えるような作りなっていました。直虎が井伊の「負債」に落とし前をつけ、死してなおその魂が働き続ける様が希望溢れるトーンで描き出されました。…

『民衆の敵』と『直虎』に関する二題 ~男女バディ物とは、一貫性のある役柄

はじめに 今週最終回を迎えたフジ月9の『民衆の敵』、最終回には高橋一生さん演じる藤堂の登場シーンが数多くありました。中でも父親との対峙と佐藤との二度の対決は最大の見せ場と言ってよいでしょう。表情筋を最大限に使って繊細に感情表現する高橋一生さ…

『おんな城主直虎』49話~「呼び出し」の終焉、虎と龍、脚本家インタビュー

今話では①家康の上洛、②直虎の画策、③光秀の動向、④信長の思惑という4つの筋が並行して語られました。中心となるのは①と②です。描写が極限まで省かれている③と④をめぐるミステリに翻弄される人々の行動が時にユーモアを交えて語られました。 そしてこの表の…

『おんな城主直虎』48話~日本のフィクサーになった女、『あさイチ』についても

相見~直虎と家康 前回、直虎は万千代と直之に「家康を使った戦のない世実現の方向性」を示しました。その時点で私は、「直虎が家康に直接説得をするような展開は非現実的なので、間接的にすることを選んだのだな」と思っていました。しかし今話ではなんと直…

『おんな城主直虎』47話~直虎、弔い合戦に向けての2つの「手」

ビジョン実現のための2つの「手」 46話で瀬名と信康を失った家康にとって、47話は「弔い合戦」の回となりました。この物語において家康と直虎は相似的な存在ですから、徳川の弔い合戦は直虎の弔い合戦に対置されます。46話で「万千代を使い、徳川が戦…

『おんな城主直虎』46話~悲劇再来の先にあるビジョン

46話はこれまでの物語の全ての因縁を集約させ、過去の悲劇のパターンをより大きなスケールで繰り返させることにより、逆に因縁解消の突破口となるエネルギーを生み出し、最後にはどこか再生の希望さえ感じさせるような不思議な感興のある回でした。 45~…

『おんな城主直虎』45話~直虎、家康、「武家のルール」からの脱却~

因果は巡る 45話ではついに信康・瀬名殺害事件の序章が切って落とされました。この事件は『直虎』において最も有名な(しかし真相はよく分からない)史実の一つであり、おそらくは物語の終盤に一つの要として配置することが最初から想定されていたであろう…

『おんな城主直虎』44話~3つの親子関係

今話では万千代の手柄と出世のストーリーラインを軸にしながら3つの親子関係が描かれました。一つは直虎と祐椿尼、もう一つは直虎と万千代、そして最後は家康と信康です。 和解する親子:祐椿尼と直虎 祐椿尼と直虎の会話は、今話の副題「井伊谷のばら」の…

『おんな城主直虎』43話~報奨分配の技術、森林の再生、『ほぼ日』対談について

2つの戦後処理 43話では万千代の小姓としての活躍と、井伊谷での森林伐採の後日譚が並行して描かれました。どちらも切り口が興味深く、さすがの脚本と思わされる展開でした。私たち熱心な視聴者はこのクオリティに慣れて当たり前のように考えがちですが、…

『おんな城主直虎』42話~万千代と家康に見る理想の上司・部下関係、おまけで高橋一生さんにやってほしい役など~

一人じゃないのよ 直虎対万千代の第三ラウンドを期待した今話、残念ながら本格的な対決はありませんでした。今話では万千代と家康の関係に焦点が置かれ、人が見ていないとこでする努力と、それを見定める上司の力量をテーマに話が進行しました。 万千代は留…

『おんな城主直虎』41話~直虎の進化、井伊と小野~

直虎 vs. 虎松、第二ラウンド 41話は脚本の巧さに改めて驚かされた回でした。話の規模としては小さいかもしれませんが、多くの登場人物のそれぞれのスレッドを巧みに操り、核となる登場人物毎に少アーチを描きながら全体をまとめ、しかも一つの回としてのメ…

『直虎』の魔法は高橋政次とともに

『直虎』のマジック・モーメント 『直虎』の感想を32話以降書き始めて一つ気がついたことがあります。それは、私はこれまで『直虎』を2つのレベルで受け止めて楽しんできたのだなあ、ということです。あえて単純化すると、一つは感情のレベル、もう一つは…

『おんな城主直虎』40話~大河ドラマにおける歴代女性主人公と直虎~

女性主人公の役割の分類 40話では井伊の家名再興のために草履番として働く万千代・万福の奮闘と、それに対する松下、近藤、旧井伊家の反応が並行して描かれました。見どころは家康と直虎の直接対決、松下源太郎の寛容さ、万千代の創意工夫など色々とありま…

『おんな城主直虎』39話~「乗り越えるべき壁」のアイデンティティの不確実性~

されど演技力 39話では虎松の帰還と徳川仕官までが描かれました。スピーディーな展開、これまでの伏線をすべて回収するような次世代幼馴染の設定、そして虎松役の菅田将暉さんのキレのある演技に引き込まれ、あっという間の45分間でした。 ドラマとして…

『おんな城主直虎』38回~武田襲来の顛末と龍雲丸の存在意義を中心に~

はじめに 38話ではとうとう武田が襲来し井伊谷を占拠しますが、あっという間に信玄が死亡し、隠し里の民は時を置かずして井伊谷に戻ることになりました。その間に高瀬の正体が明かされ、直虎の堺行きが中止になり、最後には虎松の帰還が描かれます。今話で…

『おんな城主直虎』37話~主人公の設定に関する制作者の思いと視聴者の期待のズレについて~

「空白の時空」を埋める通俗性 37話は井伊直虎の生涯の中で最も史料の少ない時期です。そこをこのドラマがどのように描くのか、以前から興味を持っていました。史実の制約の中でオリジナリティを出していくのは大きなチャレンジですが、史実の合間の「空白…

『おんな城主直虎』新ポスターに思う~38話以降に期待すること~

はじめに 新ポスター発表になりましたね。菅田将暉さんの清々しいビジュアルと、直虎の成熟した眼差しの対比に心が浮き立つのを感じました。新しいことが始まる高揚感が楽しくて、「第三幕」について何か書いてみたくなりました。そこでこのエントリでは、箸…

『おんな城主直虎』36話~全体構造からみた36 話の位置づけと直虎、政次の人物造形~

連続ドラマのリアルタイム各話感想を書くことの限界 36話を視聴して、あらためて連続ドラマを各話ごとにリアルタイムで批評することの難しさについて考えてしまいました。文学や映画の批評は作品を最初から最後までまるごと読んだり見たりして、時には何度…

『おんな城主直虎』35話「蘇りし者たち」~医療と宗教、そして聖霊の働きについて~

35話では様々な復活譚が語られました。龍雲丸、近藤、方久、政次、氏真、直虎。そのどれもが考察に値しますが、このエントリでは特に近藤と方久、そして政次の復活について考察したいと思います。前者は医療と宗教の関わり、後者は「政次とイエス」という…

『おんな城主直虎』34話~政次とイエス②二つの破壊とその予言~

【今後の史実に言及します。ご注意を】 34話の『聖書』アナロジー 34話感想は一つにまとめるはずでしたが、「政次とイエス」シリーズで思いついたことがあったので、備忘録的にまとめておきます。 「政次の死はイエスの死のアナロジーで語られる」という…

『おんな城主直虎』34話 二つの悲劇の交差点~直虎はなぜ<政次の死>を悼まないのか~

二つの悲劇 34話では、政次を失った後の直虎の悲しみと、気賀における民の殺戮という、静と動、個人と集団の二つの悲劇が同時並行に語られました。二つの悲劇は最後の直虎の幻想で交差し、来週の動きへとつながる予兆で話は終わります。 この二つの筋には…

『おんな城主直虎』33話~政次の死にみる「イエス受難」のアナロジー~

はじめに~政次の死とイエスの死のパラレル構造~ 33話のラストで磔の刑に処される政次を見て、イエス・キリストの十字架の上での死に重ね合わせた方は多かったのではないでしょうか。私も政次の死には「イエスの受難」物語からの引用が多数散りばめられて…

『おんな城主直虎』33話~直虎と政次、非言語コミュニケーションの果て~

衝撃のラストを向かえた33話、しかし二人の物語はまだ終わりではありません。政治以外の話の9割を本音と裏腹の言葉でしかコミュニケーションしかしてこなかった二人、あの「ハートに一突き」というアクションですべての言語を超えて一気に魂が結ばれてし…

『おんな城主直虎』32話 ③駿河・遠州侵攻を描く省略とディテールの美学

『直虎』のテーマと、直虎が描く未来 「政虎なつ」の衝撃が大きすぎて、その他のことがすべてふっとんでしまった感のある32話でしたが、実は大河ドラマらしく大文字の歴史がようやく動き出した回でもありました。いや、その書き方には語弊があります。これ…

『直虎』の成立過程から<なつ事件>の真相に迫る

前回までのエントリでは<なつ事件>について、ドラマの筋に沿って人物の心情の変化の読み解こうとしました。 今回は脚本や製作の過程が伺える幾つかの資料をもとに、なぜこのようなことが起こったかを推理してみたいと思います。 私はノベは2巻まで、公式…

『おんな城主直虎』32話「復活の火」②風穴を塞ぎにいく男、政次と直虎

政次となつのシーンに先立つ直虎との邂逅。これはもう色々な解釈が成り立つ味わいの深いものでした。以下はその一つに過ぎません。 直虎が政次に城主の座を譲ると言ったとき、政次はとても素直に、直虎の方にトップとしての資質があると返しました。政次にコ…

『おんな城主直虎』32話「復活の火」①愛することは赦すこと、政次となつ

さて、そもそもこのテーマについて書くために始めたブログ、自分の中ではやや苦手分野ではありますが、登場人物の関係や心理を中心に思うことを書いてみたいと思います。 32話、初見では鋭い衝撃、再見ではボディーブローのような鈍い痛み、しばらく言葉を…